2023年企業結合ガイドライン(以下「本ガイドライン」といいます。)を公表しました。近年、連邦当局は、特に垂直型企業結合による取引について、どのような取引が競争を阻害する可能性があるかに関する解釈を広げてきました。
本ガイドラインは、反トラスト法違反の可能性を特定するために企業結合を審査する際に、連邦当局が最も頻繁に使用する現行の手続きと執行方法を明確にするもので、水平型企業結合ガイドライン(2010年改訂)および垂直型企業結合ガイドライン(2020年改訂、2021年廃止)の両ガイドラインに取って換わるものです。これらのガイドラインに法的拘束力はありませんが、裁判所は、これらに説得的な権威(persuasive authority)を認め、企業結合の審査において歴史的にこれらのガイドラインに依拠してきました。
以下は、本ガイドラインの重要点をまとめたものです。
一般的に、連邦当局は、市場集中度を著しく高めて過度に集中した市場を形成し、またはさらに強固にするような競合企業間の企業結合は、競争を実質的に減少させる可能性があると推定しています。2010年のガイドラインと比較すると、本ガイドラインは、(1) この推定が適用される閾値を引き下げ、(2) 過度に集中度の高い市場において30%の市場占有率をもたらす企業結合は違法であると推定する、市場占有率の閾値を追加しています。
集中度の高い市場は、競合企業間の協調行為の影響を受けやすいと推定されます。ライバル同士である競合企業は、談合による合意や暗黙の協調行為(ライバルの行動を観察して、それに応じた行動を取る、など)を通じて、競争を制限しようと協力する可能性があります。連邦当局は、企業結合が協調行為の可能性、安定性または有効性を高めるか否かを判断する際には、一次的要因と二次的要因の両方を考慮します。
集中度の高い市場において潜在的競争が減少することに対して注目が集まっています。連邦当局は、企業結合の一方または両当事者が、(企業結合がなかったことを想定した場合)将来、その市場に参入していたかどうか、またはその市場において規模を拡大をしていたかどうかを評価します。
連邦当局は、企業結合の当事者企業が、競合他社が競争を行うために利用する製品、サービスまたは市場へのアクセスを制限できる場合、または競合他社の機密情報にアクセスできるようになる場合に発生する可能性のある、競争に対する潜在的な悪影響を評価します。これは、連邦取引委員会が2021年に垂直型企業結合ガイドラインを廃止した後の、垂直型企業結合に対する連邦当局の姿勢の変化を反映したものです。
連邦当局は、企業結合が、既存の支配的な地位をより強固なものにしたり、または拡大したりする可能性があるかどうかを評価します。ここで注目すべきは、支配的地位の推定を生じさせるような市場占有率の数値的閾値は存在しないということです。
多数の小規模なM&Aが行われる場合、個々の取引は競争阻害の懸念を生じさせないものであっても、取引全体を見れば競争を実質的に低下させる場合には、連邦当局は、単一の企業による一連の取引全体を調査することができます。
連邦当局は、引き続きプラットフォーム市場に焦点を当て、(i) プラットフォーム間の競争、(ii) プラットフォーム上での競争、または(iii) プラットフォームを置き換える競争を調査しています。連邦当局は、プラットフォームに関わる企業結合は、たとえそのプラットフォームが、直接の競合相手でなく、そのプラットフォームと伝統的な垂直的関係にあるわけでもない企業と結合する場合であっても、競争を脅かす可能性があると主張しています。
連邦当局は、互いに競合する買い手同士の間で企業結合が行われる場合、これによって売り手が阻害される可能性があると指摘し、買い手の市場に注意を向けています。特に、労働者、クリエイター、サプライヤー等の労働力の買い手同士の企業結合が雇用主に与える影響を分析します。
企業結合の合法性に疑義が生じる場合、連邦当局は、3つの一般的な弁明を検討します。
〇事業破綻を理由とする弁明
事業の破綻を理由とする弁明は、狭い範囲でしか認められていません。弁明を行う企業は、企業結合を行わなければ事業が破綻する可能性があり、当事者たる相手方企業が唯一の買主であることを示さなければなりません。
〇市場参入とリポジショニング
連邦当局は、競争上の懸念を減らすために、新たな競合相手の市場参入が、タイムリーに行われるか、その可能性があるか、または十分なものであるかを引き続き検討します。しかし、2010年のガイドラインとは異なり、本ガイドラインでは、市場参入をタイムリーとみなすための具体的な時間枠は存在しません。
〇競争促進効果の向上(Procompetitive Efficiencies)
本ガイドラインは、競争促進の効果が、企業結合に特有かつ立証可能であり、反競争的でないことを示すだけでなく、その効果が短期間での競争低下を防止するということを示すよう両当事者に義務付け、また、その効果は当該企業結合と関連性のある市場において発生するものでなければならないと規定しています。
本ガイドラインに含まれる他の変更には、仮想的独占者テスト(HMT: Hypothetical Monopolist Test)の拡大があります。HMTは、連邦当局が関連する市場を定義するために、しばしば用いる方法です。具体的には、HMTは、製品グループ間の競争を排除した場合、顧客にとっての条件が悪化する可能性が高くなるかどうかを問うものです。本ガイドラインで示されたこれらの条件には、価格以外の条件も含まれています。このことは、ユーザーに対してゼロプライス戦略を用いることが多いデジタル・プラットフォーム市場や、競争の低下により賃金以外の条件に影響が生じ得る労働市場に、連邦当局が注目していることを反映していると思われます。また、本ガイドラインは、わずかであっても重大な価格上昇とみなされる典型的な閾値を5%に引き下げています。(2010年ガイドラインでは5~10%)
企業が企業結合を検討する際には、潜在的な反トラスト法上の問題を検討し、本ガイドラインを参照することがきわめて重要となります。企業結合に関して紛争が生じた際は、裁判所が本ガイドラインに注目するだけなく、企業自身が本ガイドラインを遵守することにより、連邦当局の調査を受けるリスクを最小限に抑えることができるため、企業にとっては潜在的に大きな利益となることでしょう。しかしながら、検討している企業結合が本ガイドラインを遵守するものであるか否かを見極めることは容易ではなく、かつ事実関係によりプロセスが異なる可能性があります。
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