概要
米国議会の下院と上院は、それぞれ2020年12月28日および2021年1月1日に、トランプ大統領が国防権限法(National Defense Authorization Act、以下「NDAA」といいます。)に関して行使した拒否権を覆し、その結果、2021年1月1日にNDAAが発効しました。NDAAには企業透明化法(Corporate Transparency Act、以下「CTA」といいます。)が含まれており、同日に発効しました。CTAにより、非公開会社に課される開示義務に重要な変更が生じました。すなわち、CTAは、主として米国で事業を展開している小規模な非公開会社である「報告会社」に対して、実質的所有権(beneficial ownership)に関する報告義務を課すことになります。後述するように、報告会社には、後日までこの義務は発生しませんが、既存のまたは新規に設立される報告会社は、近い将来にこの義務を履行する準備をしなければなりません。
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CTAの下では、「報告会社」は、その「実質的所有者(beneficial owner)」に関する一定の情報を米国財務省金融犯罪捜査網(U.S. Department of the Treasury’s Financial Crimes Enforcement Network (FinCEN)、以下「FinCEN」といいます。)に開示し、更新しなければなりません。報告が義務づけられる実質的所有者に関する情報は、「(i) 完全な法的氏名、(ii) 生年月日、(iii) 報告時点の住所または勤務先の所在地、および(iv)正式に認められる身分証明書類の識別番号」 [1] (ドライバーズ・ライセンスやパスポートなど)です。この情報は、一般に公開されることはなく[2] 無断で開示された場合は、開示者に厳しいペナルティが課されることになる.[3]ことに留意する必要があります。
報告会社とは、「(i) 州またはインディアン部族の法の下で州務長官(Secretary of State)または類似の機関に書類を提出することにより設立された、または(ii) 外国の法律に基づき設立され、州務長官または類似の機関に書類を提出することにより米国で事業を行うために登録している株式会社(Corporation)、有限責任会社(LLC)または類似したエンティティ」[4] と定義づけられます。しかし、CTAは、米国で事業を行っているすべての米国エンティティや外国エンティティに適用されるわけではありません。むしろ、CTAによる報告義務は、小規模の会社を対象としたものです。具体的には、CTAは、米国で雇うフルタイム・ベース従業員の数が20人を超え、前年の総売上額が5百万ドルを超える会社で、かつ米国内に実際に事務所を構えて事業を運営している会社について、報告義務を免除しています[5] 。さらに、CTAは、(銀行、保険会社、投資会社などを含む)公開会社および金融機関など、すでに自社の実質的所有権に関する情報の公衆または連邦機関への開示を義務づけられている複数種類のエンティティについても報告義務を免除しています[6]。
「実質的所有者(beneficial owner)」という言葉は、「何らかの契約、取り決め、合意を通じて、またはその他の方法により、直接または間接的に、(i) 当該エンティティに対して相当の支配力を行使し、または(ii) 当該エンティティの持分権(ownership interests)の25パーセント以上を保有または支配する個人」[7] と広範に定義づけられます。「報告会社」の定義と同様に、「実質的所有者」の定義にも例外があります。いくつかある例外の中でも特に留意すべきものは、会社の従業員(当該従業員が自身の職務上の地位を通じてのみ、当該エンティティの支配または当該エンティティからの経済的利益が得られる場合)、相続権を通じてのみエンティティに関する権利を得る個人、およびエンティティの債権者です[8]。 このような例外があるものの、「実質的所有者」の定義は非常に広範な解釈が可能であるため、FinCENが採択する規則(以下「本規則」といいます。)により定義の明確化が予測されます。本規則は、2022年1月1日までに採択されるものと予想されます。
報告の時期については、本規則が実施される前から存在する報告会社は、本規則の発効日から2年以内に必要な情報を報告することが義務づけられることになります[9] 。その一方で、本規則が実施された後に設立または登録される報告会社は、設立または登録の時点で必要情報の報告が義務づけられることになります[10] 。報告済みの情報の変更は、変更があったときから1年以内に報告しなければなりません[11]。
最後に、CTAは、現在の規定ぶりからは、米国内非公開会社だけではなく、外国企業の小規模な米国子会社にも適用されます。このような外国会社に適用される例外なくして、このような外国会社の「実質的所有者」を特定することは複雑さを伴う可能性があります。したがって、外国企業の米国子会社が「報告会社」の定義に該当する場合は、かかる子会社の「実質的所有者」を確認し、報告する準備をする必要があります。当然ながら、報告に必要とされる情報を収集するには、アップストリームの、海外のオーナーシップ構造の複雑な分析を要する可能性があります。
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