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ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

貴社では、2020年から合法化される従業員のマリファナ服用・喫煙・使用に対処し、さらに新年度から施行される新たなイリノイ州法および連邦法を適用する準備は整っているだろうか?

11.6.19

概要

増田・舟井法律事務所の雇用/労働法/福利厚生部門は、2019年10月23日にウェビナーを開催した。ウェビナーでは、米国労働省が施行する新規則により、適用除外従業員(exempt employees)の雇用分類条件に生じる影響と変更、および嗜好用マリファナとハラスメントに関してイリノイ州で実施される新規則について説明した。これら規則の実施によって、全雇用主が影響を受けるため、各社で就業規則、慣行およびトレーニング・プログラムを改正し、当該連邦・州規則が遵守されていることを確認する必要がある。当事務所では、各雇用主に適切なトレーニング・プログラムを提供している。

間もなく2019年が終わろうとしているが、イリノイ州に限らず、全米の人事担当者は、新年から施行される数々の法律や規則について学び、その適用に備えて大忙しに違いない。各社の人事担当者は、ハラスメントと薬物使用に関するトレーニング・プログラムを計画し、自社の就業規則に含まれるハラスメントと薬物検査に関する条項を改正する必要がある。さらに従業員に適切な残業手当を支払い、未払残業手当を理由に自社が提訴されないように注意しなければならない。

イリノイ州では、州議会が知事JB プリツカーの署名を得て、「職場の透明化法(Workplace Transparency Act)」だけでなく「大麻規則及び税法(Cannabis Regulations and Tax Act)」も制定した。また米国労働省も、雇用主が(公正労働基準法の下)適用除外従業員(exempt employees)に支給すべき最低給与基準額を引き上げる規則を発行した。

1.  職場におけるマリファナの使用

まず第一に、イリノイ州では嗜好用マリファナの使用が合法化された。イリノイ州法により、雇用主は、合理的範囲においてゼロ・トレランス(規則を厳格に適用する)またはドラッグ・フリー(麻薬のない)の職場を維持する方針を採用することができ、職場における薬物(マリファナ等)の検査、喫煙、摂取、保管および使用に関して規則を定めることができる。さらに、雇用主は、従業員が、大麻の服用などにより身体や判断力などに何らかの影響を受けた状態で職場に来たり、または担当業務に従事したりするのを禁じることもできる。

イリノイ州法では、従業員に大麻による影響(症状)が表れているかを判断し、特定かつ明確な症状を証拠に従業員が薬物を摂取した状態であるという誠実な確信を得るための基準を定めている。ただし、雇用主は、従業員に合理的機会を与えて、雇用主がかかる判断をするに至った根拠について異議を唱えられるように配慮しなければならない。重要なことには、イリノイ州議会は職場におけるプライバシー法(Workplace Privacy Act)を改正したが、この改正により、雇用主が就労前の従業員に無作為大麻検査を行えるか否かという点で、混乱と意見の相違が生じることとなった。イリノイ州職場におけるプライバシー権法(Illinois Right to Privacy in the Workplace Act)は、大麻も含め、州法により合法化される製品を使用する従業員を保護している。しかし、同法は、雇用主は、従業員が勤務時間中に大麻を摂取し、その影響を受けることを禁じることができるとも規定している。

前述のようなマリファナの使用に対処するために、雇用主は、その敷地における勤務時間中の従業員のマリファナの使用と所持に関する就労規則を見直し、改正することをお勧めする。加えて、雇用主は、薬物(マリファナ)の服用による影響が表れていると思われる従業員の薬物検査に関する方針・規則を設け、実施する必要がある。雇用主は、そのような従業員の見分け方と薬物検査が適切とみなされる状況の判断の仕方について、スーパーバイザーを教育し、トレーニングする必要もある。雇用主が、就職応募者に対して薬物検査を今後も継続し、大麻使用に関する無作為検査を継続するか否かについても考慮することをお勧めする。

2. セクシャル・ハラスメントに関する新たなトレーニングと方針

第二に、イリノイ州職場の透明化法(Illinois Workplace Transparency Act)は、ハラスメント(嫌がらせ)と差別を、実際(actual)のものと認識される(perceived)ものに区別して定義づけた。さらに、雇用主の施設で生じた行為と施設以外で生じた行為にイリノイ州人権法(Illinois Human Rights Act)を適用し、従業員だけでなく、請負業者などの非従業員も保護している。雇用契約書、仲裁合意書および退職(離職)合意書には、機密保持条項だけではなく、従業員が実際にそれらの条項に合意する前に、自らの権利について認識できるような特別な文言が記載されなければならない。

また、イリノイ州の各雇用主は、毎年、管理職従業員(マネージャー)を含むすべての従業員に対して、ハラスメント防止トレーニングを実施することが義務づけられる。加えて、雇用主が、セクシャル・ハラスメントおよび差別の損害賠償を理由に訴えられたことがある場合は、かかる損害賠償の請求に対して雇用主に下された不利な判決および行政判断の件数を、毎年イリノイ州人権省(Illinois Department of Human Rights)に報告しなければならなくなる。雇用主が、かかるトレーニングや報告を怠った場合、イリノイ州人権省は、雇用主に罰金を科すことができる。

前述のような新たな法律や規則の改正に対処するため、雇用主は、差別および嫌がらせを禁止する自社の方針および規則を検討しなおし、雇用契約書、仲裁合意書および退職(離職)合意書に変更を加えなければならない。さらに雇用主は、年に一度、マネージャーを含む全従業員を対象とするハラスメント防止トレーニングを実施しなければならない。透明化法に基づき、イリノイ州人権省が雇用主のためにモデル・トレーニング・プログラムを発行することになっている。雇用主は、この人権省のモデル・プログラムに従って、トレーニングを実施してもよいし、あるいは雇用主独自のプログラムを設け、実施してもよい。ただし、人権省のモデル・プログラムは2020年の半ばまで発行されないという発表があったため、各雇用主は、新年に備えて時間的余裕を持ってトレーニングを実施できるように、今から自社のプログラムを計画することをお勧めする。

透明化法で重視されるように、プログラムには、当然ながらセクシャル・ハラスメントに関する情報を含めるべきだが、それだけではなく、潜在的偏見(implicit bias)やいじめ(bullying)に関する内容、および人種・年齢・出身国などに基づく、他の種類のハラスメントや差別についての情報も含めるべきである。さらに、スーパーバイザー用のトレーニング・プログラムも別途設けることをお勧めする。その理由は、ハラスメント問題が生じた際には、スーパーバイザーが、雇用主の経営幹部に報告し、調査支援をし、ハラスメント行為の再発を回避するための対策を講じる等の特別な義務を負うからである。

最後に、雇用主が、前年にセクシャル・ハラスメントや差別を理由として提訴されている場合、雇用主は、かかる損害賠償の請求に関する行政判断および不利な判決を、毎年7月1日までに、人権省に報告しなければならない。弁護士などの専門家は、現在、人権省からかかる報告手続きの詳細事項が発行されるのを待っているところである

3.  時間外労働手当(「残業手当」)の未払いを理由とする訴訟の回避

第三に、米国労働省(U.S. Department of Labor)は、連邦公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)の下で新規則を発行した。特定の従業員の、あらかじめ定められた最低給与基準額が週給684.00ドルまたは年収35,568ドルである場合、雇用主は、2020年1月1日から、かかる従業員の雇用分類を(現在の適用対象従業員から)適用除外従業員(exempt employee)に変更でき、すなわち残業手当を支給しなくてもよくなる。

適用除外従業員の現在の最低給与基準額が週給455ドルまたは年収23,660ドルであるから、その基準額が引き上げられることになる。本新規則は、適用除外従業員とみなされる経営幹部(executive)、運営管理職(administrative)および専門職(professional)従業員のみに適用される。従業員に支払われる給与額が最低給与基準額(35,568ドル)より少ない場合でも、本給与額に加えて、(たとえば契約や合意などで定められている場合など)支給が保証されたボーナス(non-discretionary bonus)または奨励給として、かかる最低給与基準額の10%以上の金額が従業員に支払われる場合は、最終的に従業員が受領する合計給与額が上記最低給与基準額に達してしまう可能性がある。新規則による適用除外従業員の最低給与基準条件が満たされていない場合、従業員は、残業手当の支給を請求することができる。

さらに、特定の従業員が、労働省の任務内容テスト(duties test)に基づき高額賃金従業員の職務を遂行し、当該従業員として所定の給与基準額を受け取っている場合も、適用除外従業員とみなされる。本新規則により、労働省は、かかる高額賃金従業員の給与基準額も100,000ドルから107,432ドルに引き上げた。

したがって、この機会に、雇用主は、週給684ドルまたは年収35,568ドルよりも低い給与を受領している従業員の雇用状況を調査してみる必要がある。まず初めに、雇用主の組織図と従業員の職務内容を照合・分析し、従業員の業務内容が、実際に経営幹部(executive)、運営管理職(administrative)および専門職(professional)従業員の職務内容と一致しているか確認する。かかる職務内容に該当しない場合は、それらの従業員は、適用除外従業員(exempt)ではないため、残業手当を受け取る資格を有する。雇用主は、これら適用対象(non-exempt)従業員の勤務時間数の記録をつけ、時間外労働が生じた場合は、その時間数に応じて残業手当を支払うか、あるいは、当該従業員に時間外労働を割り当てないようにすべきである。調査の結果、かかる従業員が実際に経営幹部(executive)、運営管理職(administrative)および専門職(professional)従業員の職務を行っていて、雇用主が同従業員を、残業手当の対象外である適用除外従業員(exempt)として分類づけたい場合は、当該従業員の給与額を週給684ドルに引き上げるか、またはそれよりも低い週給額を支払ったとしても、その代わりに事前に保証されたボーナスやコミッションを支給して、その差を補う必要がある。雇用主が、このような変更を実施する場合は、変更に伴う従業員の反応および給与額を引き上げることで雇用主の給与体系に与える影響を考慮し、それに対処する計画も立てておく必要がある。

各雇用主は、前述の法律上義務づけられたトレーニングの実施と会社従業員規則の改正について、顧問弁護士や雇用法専門弁護士と確認し、さらにまた残業代の未払いを理由に従業員から訴えられることがないように、従業員の業務内容と給与額の分析についても相談することをお勧めする。前述した法律および規則、すなわち、「職場の透明化法(Workplace Transparency Act)」、「大麻規則及び税法(Cannabis Regulations and Tax Act)」および「連邦公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)の新規則」は、2020年1月1日から施行されるため、迅速な対処が必須である。

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