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ニュース&イベント: 雇用/労働法/福利厚生関連情報

採用通知をした後で障害を持つ就職志望者にMRI検査費用を負担させるのはADA違反

9.12.18

 [概要]

次のような状況を想定してみよう: 貴社では、求人募集をしていた職務地位(「ポジション」)の就職志望者に面接をした。志願者は、聡明かつ勤勉で、経験も豊富な上に同ポジションに要する十分な資格も有してた。面接の直後に、貴社は、バックグラウンド・チェックを行い、採用内定通知後に貴社で行う健康診断に問題がなければ採用するという条件で、内定通知をした。かかるポジションの基本的な職務を遂行するには、特定レベルの体力が必要とされるため、健康診断は、その種の地位の採用者にとってはかなり標準的なものだった。しかし、就職志望者は、最近、健康診断を受けたとき、数年前に負傷し、その影響で腰痛を患っていることを話した。貴社は、就職志望者の腰部損傷がかかるポジションで必要とされる特定任務の遂行を妨げることになるのではないかと懸念した。そして、就職志願者に追加的健康診断・身体検査を要求し、その経費を自己負担させることを検討した。このような場合、貴社は、同志願者に、経費自己負担で、追加的健康診断を要求すべか、またはすべきではないか?

  この答えは、少なくとも連邦第9巡回区控訴裁判所によると、追加的健康診断は要求すべきではない。1990年障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990)(「ADA」)の違反となり得るからである。雇用均等委員会(EEOC) 対 BNSF Ry. Co.事件 (No. 16-35457, 2018 U.S. App. LEXIS 24534 (9th Cir. Aug. 29, 2018))で、就職志望者であるRussell Holt(「ホルト」)は、被告-上訴人である BNSF Railway Company (「BNSF」)から採用内定(条件)通知を受け取った。それは、ホルトが当該通知後に受ける健康診断の結果により必要要件を十分に満たしていると判断されれば、シニア・パトロール・オフィサー(警察官)の地位に採用するという趣旨の内定通知であった。ホルトは、健康診断のときに、4年前に背中を負傷し、L2腰椎椎間板ヘルニアを患っていることを話した。ホルトの主治医、カイロプラクターおよびBNSFの医療サービス請負業者が雇った医師は、口をそろえて、ホルトの背中の負傷が現在の職務に制限を加えることはないと判断した。しかし、BNSFは、ホルトがシニア・パトロール・オフィサーとしての任務を果たせるか否かを決定する前に追加情報を得ることを望み、ホルトに経費自己負担で背中のMRI検査を受け、その結果を提出するように要求した。しかし、ホルトは、MRI検査の費用を支払うことができなかったため、BNSFはホルトに対する採用内定を取り消した。連邦第9巡回区控訴裁判所は、BNSFは、就職志望者であるホルトに、経費自己負担で背中のMRI検査を受けさせ、さらにその結果を提出させようとした時点で、ADAに違反したと判示した。

  ADAの下では、雇用主が就職志望者に対して行う医療関連調査は、3つのカテゴリーに分けられ、各カテゴリーに異なる規則がある。かかるカテゴリーとは、雇用主が、(1) 採用通知をする前に行う調査、(2) 採用通知はしたが、就職志望者が職務を開始する前に行う調査、および (3) 職務開始時またはその後に行う調査である。本BNSF事件で争点となった、2つめのカテゴリーの医療関連調査では、就職志望者の職務遂行能力またはビジネス上の必要性との一致だけにこだわる必要はない。しかし、ADA(section 12112(a))では、一般的に、雇用主に対して、求職申込手続、採用およびその他雇用条件・権利に関して、応募条件(資格)に適った個人をその障害に基づいて差別することを禁じている。(1) 就職志願者には、ADAで定義される範囲の障害があり、(2) 雇用主は、かかる障害を理由に同志願者を差別しており、(3) 同志願者は、雇用主の応募条件を満たしているため、雇用主は、一見したところ、ADA(section 12112(a))に違反しているようである。

 本BNSF事件で、連邦第9巡回区控訴裁判所は、ADA(section 12112(a))の一応の違反(prima facie violation)となり得る3要因がすべて揃ったと判示した。まず第一に、ホルトが背中を負傷した経験を理由にMRI検査の結果を提出することを要求し、自己経費負担でMRI検査を受けることをホルトの採用通知の条件とし、ホルトが検査結果を提出できなかったために、採用を取り消したという点で、BNSFがMRI検査によって障害がないことを証明しない限り、ホルトに障害があるとみなすことを示していたために、裁判所は、ホルトには、ADAで定義される範囲の障害があったと判示した。すなわち、ホルトに障害があるとBNSFが認識したことで、ホルトはADAによる「障害」者としての定義に十分当てはまっていたことになる。第二に、BNSFがホルトにMRI検査の経費支払を要求した時点で、BNSFが障害があるとは自ら認識しない(みなさない)他の個人には課すことのない余分な経済的負担を、障害があるとみなす個人には課したという理由から、ホルトに障害があるという自らの認識を根拠に、BNSFがホルトを差別していたと裁判所は判示した。BNSFは、ADAの違反を証明するための第3要因、すなわちホルトが雇用主の応募条件を満たしていたこと、については異議を唱えなかった。

 本件は、連邦第9巡回区控訴裁判所で、雇用主に少なくとも2つの重要点を明確に示している。まず1点目は、ADAの下では、「障害」のある個人の定義には、障害を「持つとみなされる」個人も含まれること。換言すれば、従業員が実際に障害を持っている必要はなく、従業員の障害が一時的なもの、または深刻なレベルのものでなくても、雇用主がそれを障害として認識するだけで十分であるということである。そして2点目は、雇用主が就職志望者に採用内定通知をした後で、または同志望者の勤務開始日前に、健康診断を受けることを義務づけ、その結果に基づく採用決定を条件づけることが、ADAによって明示的に認められてはいるが、障害を理由に健康診断の費用などの追加的経済的負担を、障害を持つ個人に課すことは認められていないということである。

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