人工知能(AI)を取り巻く法律分野は、新たに注目を浴び始めたばかりですが、近時爆発的に普及した最新「チャットボット(chatobot)」の代用品として生成AIが生み出されたことで、2023年以降は、一層の展開が見られるようになりました。
その根本的な原因としては、生成AIがコンピュータ・システムを通じて、外部の様々な著作物を頻繁に組み込みながら、インターネット上で膨大なデータを収集していることが挙げられます。その結果、原著作者は、Google、Meta、MicrosoftおよびOpenAIなどのAI企業が大規模言語モデルを開発する際に、原著作者の著作物を不正に「利用した」と主張し、当該AI企業に対して多数の著作権侵害訴訟を提起しています。[1] AI企業は、1976年の著作権法の「フェアユース(fair use: 公正利用)」に基づく例外を主張することで、自らの行為の正当性を主張してきました。[2] これら著作権侵害訴訟事件の多くは、現在も係争中であるため、フェアユースに係る論点は未だ解決していません。
フェアユースは、著作権侵害に基づく請求に対する積極的抗弁(affirmative defense)であり、被告が立証責任を負います。裁判所は、知的財産の使用がフェアユースとみなされるか否かを決定する際に、以下の要素を考慮します。
- 利用の目的と特性
- 著作物の性質
- 使用された部分の量と実質性
- 著作物が利用されることにより、その潜在的市場に及ぼされる影響[3]
生成AIに係る著作権侵害訴訟においては、上記の(3)の要素が最も問題となるように思われます。継続的かつ反復的に、様々な模範例を正確に学ばせるという、言語モデルの学習方法は、人間の頭脳が新しいスキルを習得するときの方法と類似しています。多数の情報源から瞬時に何千ものコンテンツを収集するプロセスを伴う場合に、言語モデルの学習に使用される1つの著作物を正確に特定し、証明することは困難です。さらに、AI企業は、競争力を失うことを恐れ、多くの場合自社のアルゴリズムを公開しようとしないことから、ブラックボックス問題が生じています。
これらの訴訟は現在も係争中であり、立法者は規制を強化する必要性を認識しています。2023年10月、バイデン大統領は、大統領令(Executive Order 14110)に署名し、行政府に、AI規制に関して新たな目標を定める権限を付与する法律を制定しました。
2024年4月、連邦議会は生成AI著作権開示法案(Generative AI Copyright Disclosure Act)を提案しました。同法により、企業は、新たな生成AIモデルを公開する少なくとも30日以上前に、学習データに使用されている著作物を特定するのに必要な情報およびURLアドレスを著作権局に通知することが義務付けられます。本生成AI著作権開示法はまだ施行されていません。
包括的な法案が可決され、現在係争中の訴訟事件の多くが解決するまでは、知的財産権保護の明白な必要性に反する生成AIの利用の合法性は明らかではありません。
本件に関する係争中の訴訟事件または生成AIの適用が貴社のビジネスに与える影響についてご質問がございましたら、貴案件の担当弁護士または訴訟部門のメンバーまでお問合せください。
[1] Andersen v. Stability AI Ltd., No. 3:23-cv-00201 (N.D. Cal.); Tremblay et al. v. OpenAI, Inc. et al., No. 3:23-cv-03223 (N.D. Cal.); Authors Guild v. OpenAI, Inc., No. 1:23-cv-08292 (S.D.N.Y.); Getty Images (US), Inc. v. Stability AI, Inc., No. 1:23-cv-00135 (D. Del.); The New York Times Co. v. Microsoft Corp., No. 1:23-cv-11195 (S.D.N.Y.)
[3] Google LLC v. Oracle America, Inc. (2021) 593 U.S. 1, 2.
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