2024年4月23日、連邦取引委員会(FTC)は、全国的に競業避止契約を禁止する広範な最終規則を3対2の議決により採択しました。賛否が分かれる本競業避止契約の禁止は、FTCが最初にその規則案を発行し、結果的に26,000件以上のパブリックコメントが寄せられた最初の規則案が公表されてから約1年6か月後に実施されることになります。
本最終規則は、連邦官報(Federal Register)に公表されてから120日後に発効する予定ですが、かかる規則に異議を唱える訴訟が提起され、発効日が遅れたり、または差し止められたりする可能性があります。
留意すべき重要点
■ 本最終規則は、FTCが定義する「労働者」、すなわち、「賃金の支払いの有無にかかわらず、従業員、独立請負人、エクスターン、インターン、ボランティア、実習生、個人事業主などの肩書または連邦法もしくは他の州法上の地位を問わず、現在もしくは以前労務を提供した自然人」に広範に適用されます。換言すると、本最終規則は、記載されるとおり、発効後に締結される競業避止契約のみならず、発効日前に締結された競業避止契約も広範に無効とすることを意図するものです(2つの適用除外規定については後述します)。
■ 本最終規則は「競業避止条項」を、「(1)労働者が、当該競業避止条項を含む雇用を終了した後に、米国の異なる雇用主の下で仕事を探したり、もしくは受諾したりすること、または(2) 労働者が、競業避止条項を含む雇用を終了した後に、米国で事業を運営することを、雇用主が禁じたり、かかる行為を避けさせたり、もしくはかかる行為があった場合は罰したりするような雇用条件または条項」と定義しています。FTCは、秘密保持義務、勧誘禁止および類似の不作為コベナンツに関して類型的な禁止条項を定めはしませんでしたが、本最終規則の文言は、労働者に対して雇用終了後に他の仕事を探したり、事業を開始することを禁じたり、あるいは罰したりすることと同等の効果をもたらすいかなる雇用の条件をも包含することを企図していると説明しています。
■ 注目すべき点は、既存の競業避止契約が「上級幹部(senior executives)」と締結されている場合は、本規則の適用は除外され無効とならず同契約の効力はその満了時まで存続するということです。「上級幹部」という言葉は、年収151,164ドル以上の労働者のうち、社長、最高経営責任者(CEO)またはそれに相当する者、あるいは「事業体または企業グループの重要な側面」を支配する意思決定を行う権限を有するその他の者などの「意思決定権限を持つ役職」にある労働者を意味します。
■ さらに、純粋な事業譲渡(the bona fide sale of a business)に基づいて締結された競業避止契約も、本最終規則が定める競業避止契約の一般的禁止の適用からは除外されます。
■ 本最終規則により、雇用主には、各労働者に対して「労働者の競業避止義務は、法的に強制されるものではなく、また執行できるものでもない」ことを説明し、既存の競業避止義務条項が無効となることを本最終規則の発効日までに通知する義務があります。当該通知は、競業避止契約を締結している各労働者に対して、氏名を明記し、個別に行われなければならず、手渡されるか、郵送、電子メールまたはテキストメッセージによって届けられなければなりません。
■ FTCの本最終規則は、州法により競業避止契約の実施が認められている場合でも優先されます。しかし、州法が本規則に抵触せず、労働者に同規則よりも強化された保護を与えている場合は、そのような州法の効力は否定されません。
雇用主の検討事項と次のステップ
FTCの決議により採択された本最終規則は、現在、連邦官報で公表されてから120日後に発効する予定であるため、即時に影響を及ぼすものではありません。さらに、雇用法の実務家は、業界団体が法廷で本最終規則の妥当性に異議を唱える意向を表明していることを鑑み、本規則の実施が大幅に遅れることを予測しています。実際、全米商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)は、すでに連邦地方裁判所テキサス州東部地区で、FTCに対して訴訟を提起しています。そのような訴訟が係争中であり(さらに他の訴訟も予想されるため)、本最終規則の発効日が遅れたり、実施されない可能性すらあると考えます。
したがって、当面の間は、すでに労働者と競業避止契約を結んでいる雇用主は、同契約条件の見直しを検討し、状況に応じて、上述の通知を行う準備をしておくことをお勧めいたします。
本稿に関して、または本最終規則が貴社の競業避止契約に与える影響についてご質問がある場合は、ノーリン・アムジャッド弁護士(Naureen Amjad)、ケヴィン・ボアザン弁護士(Kevin Borozan)、または雇用/労働法/福利厚生部門の他のメンバーまでお問い合わせください。
増田・舟井法律事務所は、米国でビジネスを展開する日本企業の代理を主な業務とする総合法律事務所です。
当事務所は、シカゴ、デトロイト、ロサンゼルス、およびシャンバーグに拠点を有しています。
© 2024 Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd. All rights reserved. 本書は、特定の事実や状況に関する法務アドバイスまたは法的見解に代わるものではありません。本書に含まれる内容は、情報の提供を目的としたものです。かかる情報を利用なさる場合は、弁護士にご相談の上、アドバイスに従ってください。本書は、広告物とみなされることもあります。