概要
- 2023年8月30日、米国労働省(United States Department of Labor)(以下「DOL」といいます。)は、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)(以下「FLSA」といいます。)による最低賃金および時間外賃金の支給対象とならない、管理職、運営職および専門職従業員といった「ホワイトカラー・エグゼンプション」(適用除外従業員/exempt)に該当するための俸給水準要件を引き上げる規則改正案を発表しました。
- かかるDOLの規則改正案では、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となる俸給水準は、現在の週当たり684ドル(年間35,568ドル)から1,059ドル(年間55,068ドル)に引き上げられ、その中でも高額賃金取得者(Highly Compensated Employees)(以下「HCE」といいます。)の俸給水準は現在の年間107,432ドルから143,988ドルに引き上げられます。
- 本規則改正案は、2023年9月8日に連邦官報(Federal Register)で公表され、2023年11月7日を期限として60日間にわたりパブリックコメントが募集されました。
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現行法
現行法では、管理職(Executive)、運営職(Administrative)および専門職(Professional)従業員(以下総称して「EAP」といいます。)は、ホワイトカラー・エグゼンプションのうちの1つの類型に該当すれば、FLSAの時間外賃金の適用から除外されます。
DOLは、これらの適用除外について判断するために、数十年にわたり、次の3要件テストを行ってきました。 (1)従業員が、適用除外の対象となる職務を遂行していること、(2)従業員に固定給が支払われていること、そして(3)従業員に、一定額以上の高額の賃金が支払われていることです。
現在、そのようなホワイトカラー・エグゼンプションに該当するためには、EAPは、通常、次の要件を満たしていなければなりません。
- DOL規則に規定されている経営・管理・専門的業務を主に行っていること(職務要件)
- 従業員に固定給が支払われ、その俸給額は、遂行される業務の質または量の変動により減額されないものであること(俸給基準要件)
- 一定額(現在は週684ドル、または年35,568ドル)以上の俸給額が支払われていること(俸給水準要件)
さらに、HCE該当性テストでは、(1)年間総額107,432ドル以上の給与が支払われ、(2)週当たり684ドル以上の給与が支払われ、(3)オフィスワークまたは非マニュアルワークに従事し、そして(4)経営幹部、管理職および専門職従業員としてFLSAによる時間外賃金の適用除外の対象となる職務または責務のうちの少なくとも1つを慣例的かつ定期的に遂行している場合は、FLSAによる時間外賃金の支払対象から除外されています。
規則改正案
DOLの規則改正案では、ホワイトカラー・エグゼンプションの俸給水準が、現在の週給684ドル(年給35,568ドル)から週給1,059ドル(年給55,068ドル)に引き上げられます。これは、2020年1月1日から実施されている現在の俸給水準を約55%上回るものです。しかしDOLは、最終案を公表する際には、その時点で入手可能な最新の所得データを利用することを明確にしています。そのため、俸給水準は55,068ドルよりもさらに高くなる可能性があります。たとえば、DOLは、俸給水準は2023年第4四半期までに、週当たり1,140ドル(年間59,285ドル)、また2024年第1四半期までには、週当たり1,158ドル(年間60,209ドル)に上がる可能性があると予測しています。さらに、DOLは最新の所得データを反映させるために、俸給水準を3年ごとに自動的に引き上げることも提案しています(もっとも、予期せぬ経済的または他の状況が生じた場合には、かかる自動更新を一時的に遅らせることができるとしています)。
さらに、規則改正案によれば、HCEの年間俸給水準は34%増加し、現在の107,432ドルから143,988ドルとなります。本規則改正案では、HCEテストを満たすために必要な俸給額は、全国のフルタイムの俸給労働者の1週間当たりの収入を年換算した値の85パーセンタイルの水準に匹敵するものとなります。
DOLは、2022年のデータに基づき、HCEテストを満たすための年間総給与額は143,988ドルであると報告しています。しかし、ここでもDOLは、最終案が発表された時点で入手可能な最新の所得データに基づく水準値を適用すると述べているため、水準値とみなされる年間給与額がより高くなる可能性があります。また、ホワイトカラー・エグゼンプションの俸給水準と同様に、HCEを適用除外対象とするための俸給水準も、適用される収入データに基づき、3年ごとに自動的に引き上げられることになります。
雇用主に対する影響と懸念
かかる改正案による俸給水準が最終規則として実施された場合、360万人の従業員が昇給を受けるか、またはそのFLSA上の分類が変更されることになり、雇用主が従業員に支払う賃金が増加し、初年度だけでも従業員の所得額が12億ドルも増加するだろうとDOLは予測しています。
したがって、現在、職務判定の要件に適った適用除外従業員を雇い、684ドル以上1059ドル未満の週給を支払っている全国の雇用主の多くは、改正案による俸給水準要件を満たすために従業員の俸給額を上げる必要性が生じることで、経済的に重大な影響を受けることになるでしょう。本改正案がそのまま最終規則として実施されれば、雇用主は、現在は時間外賃金を支給していない従業員に対して新たに時間外賃金を支払うことになるか、あるいは最終規則の実施後も従業員が適用除外従業員としての地位を維持できるように、多くの適用除外従業員に対して昇給を実施しなければならなくなります。
さらに、本規則改正案が公表されることによって、影響を受ける従業員の労働市場における給与水準が高まるため、雇用主は、従業員を採用し維持する競争力を持続させるために、給与水準を上昇させることが必要であると判断するかもしれません。以上のことから、影響を受ける従業員に対して昇給または時間外賃金の予算を増額する雇用主も出てくるでしょう。さらに、本規則改正案によって、雇用主が、高額な賃金に見合うように、従業員の職務内容を拡大・変更する可能性もあります。あるいは単に、適用除外従業員のFLSA上の分類を適用対象従業員(”non-exempt”)に変更するかもしれません。
雇用主へのアドバイス
雇用主は、俸給水準と職務内容の双方のカテゴリーにおいて、従業員のFLSA上の分類が適切であることを再確認する必要があります。
また、本改正案が実際に及ぼす影響を評価するために、55,068ドル未満の俸給を得ている適用除外従業員の平均労働時間の調査を開始するのが望ましいでしょう。適用除外従業員の週当たりの就労時間が40時間を超えることがほとんどない場合は、そのFLSA上の分類が適用対象従業員となったとしても、実際に大きな影響はないでしょう。反対に、適用除外従業員の労働時間が常に週40時間以上である場合、雇用主は、その職務内容(仕事量)の見直し、パートタイム労働者や契約労働者の導入、重要度の低い担当職務の削減などによる、コスト削減戦略を検討するのが良いかもしれません。
従業員に支給する給与額を本改正案で提案された俸給水準に引き上げられない雇用主は、同改正案の対象となる従業員の1週間当たりの平均労働時間を確認、将来予測される時間外賃金を見積もるか、あるいは時間外労働の必要性を削減または排除して当該従業員の労働量を再調整できるか検討すべきです。また、雇用主は、適用対象従業員の時間外労働時間を計算するにあたっては、非裁量的ボーナス、手数料およびその他の報酬を従業員の正規の給与額の算定に組み込む必要があることに留意が必要です。また、適用除外従業員を適用対象従業員に分類しなおす際には、そのような分類の変更が、勤務スケジュールの柔軟性の喪失やタイムキーピング義務など、従業員の士気に与える影響にも留意することが重要です。
本件について関心のある雇用主と企業グループには、本規則改正案についてDOLにコメントを提出する機会が与えられていました。本規則改正案は、2023年9月8日に連邦官報で公表され、60日間のコメント期間は2023年11月7日に終了しました。雇用主は、最終案が実際に公表されるのを待ってから、各種の変更を実施することが推奨されますが、最終案は、公表されてから60日後に効力を生じる見込みです。したがって、雇用主は、近い将来、本規則により影響を受ける可能性のある従業員のFLSA上の分類について、あらかじめ調査と検討を行うことが賢明でしょう。
DOLの規則改正案または同改正案が貴社の従業員分類に与える影響に関して何かご質問がある場合には、ノーリーン・アムジャッド弁護士(Naureen Amjad)、ケヴィン・ボアザン弁護士(Kevin S. Borozan)、または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。
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