概要
・ 2023年9月1日、カリフォルニア州ギャビン・ニューサム知事の下、上院法案第699号 (SB699) が成立しました。同法は、雇用主が従業員との間で競業避止契約を締結したり、従業員に対して競業避止契約を強制することを違法とし、また、競業避止契約の締結時において従業員がどこで勤務していたかにかかわらず、カリフォルニア州においては競業避止契約は無効となることを確立するものです。
・ また、2023年10月13日、同じくニューサム知事の下、議会法案第1076号 (AB1076) が成立しました。同法は、雇用主が、雇用契約書に従業員が退職した後の競業を禁止する条項を設けること、または、退職した後の競業を禁止する契約を締結するよう従業員に対して求めることを明示的に違法とするものです。
・ AB1076に従い、雇用主は、雇用契約書に設けられた退職後の競業避止条項および/または雇用主との間で締結された競業避止契約が無効であることを、2024年2月14日までに、現従業員および元従業員に対して個別に書面で通知しなければなりません。
・ これらの新法は2024年1月1日に施行されます。
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上院法案第699号 (SB699)
2023年9月1日に成立したSB699は、従業員の雇用流動性に関するカリフォルニア州の保護を強化するとともに、州外の従業員の競業避止契約を無効にすることを目的としています。
現行カリフォルニア州法、具体的にはカリフォルニア州事業および職業法典 (Business and Professions Code) 第16600条は、カリフォルニア州で働く従業員との間の競業避止契約は通常無効であると定めています。
第16600条は、あらゆる種類の合法的な職業、取引または事業に従事することを制限する契約は、その限りにおいて無効であると規定しています。この点に関し、カリフォルニア州の裁判所は、第16600条は、顧客の勧誘禁止および干渉禁止特約と共に、退職後の競業避止条項に適用されるという一貫した見解を示しています。
SB699は、これをさらに一歩進めて、カリフォルニア州事業および職業法典第16600.5条を制定しました。同条は、雇用主が、第16600条の下で無効とされる競業避止契約を従業員または内定者との間で締結したり、当該契約を強制することを禁止しており、本規定に従わない場合は、民事上の違反となります。
この新法の下では、競業避止契約は、それがいつ、どの州で締結されたかにかかわらず、無効とされます。さらに、SB699は、たとえ同契約が締結された場所や当該従業員が雇用されていた場所がカリフォルニア州外であっても、(現在、同従業員がカリフォルニア州内で働く限り)元雇用主または現雇用主が、第16600条により無効とみなされる契約を強制することを禁じています。
また、SB699は、従業員や内定者に対して、雇用主または内定先による競業避止契約の強制を防止することを目的とした訴訟を提起することを認めています。
この新法が制定されるまでは、この問題を直接取り上げるほとんどの裁判所は、従業員との間の契約に制約的特約が含まれる場合でも、それだけでは雇用主に対する従業員の訴権を創出することにはならないと判示してきました。
この私的訴権 (private right of action) は、現在、このカリフォルニア州事業および職業法典第16600.5条に直接規定されており、それには差止命令、損害賠償および勝訴した従業員に対する弁護士費用の支払いに関する救済の可能性についても定められています。
議会法案第1076号(AB1076)
また、AB1076は、カリフォルニア州事業および職業法典第16600条を修正し、新たな条項(第16600.1条)を設けています。
第16600.1条は、雇用契約に競業避止条項を設けることは違法であると明示するとともに、競業避止条項は、それがいかに限定的なものであっても、法令上の例外に該当しない限り、無効であるとしてきたカリフォルニア州の判例の考えを改めて確認するものです。なお、第16600条の競業避止条項の禁止に対する唯一の例外は、事業を売却する売主または事業体の構成員もしくはパートナーとの間で締結される競業避止契約です。
さらに、新法では、競業避止契約が禁止される範囲が拡大され、合法的な職業、取引または事業への従事が制限される者自身が契約当事者ではない場合(企業間契約など)にも及びます。さらに、第16600.1条によれば、雇用主は、2022年1月1日以降に雇用された現従業員および元従業員に対して過去に締結された競業避止条項・契約が無効である旨を書面で通知しなければなりません。通知の期限は2024年2月14日とされています。
SB699およびAB1076はいずれも2024年1月1日から施行され、遡及的に適用されます。
重要ポイントと次のステップ
カリフォルニア州が従業員の競業避止契約を制限しようとする動きは今に始まったことではありません。そして、SB 699およびAB 1076はともに、かかる制限の範囲と、雇用主がかかる条項に違反した場合の刑罰を拡大しようとするものです。
したがって、カリフォルニア州の雇用主は、2022年1月以降に雇用された現従業員および元従業員との雇用契約に何らかの制約的特約が含まれるか否かを判断するために、これらの契約を見直し、制約的特約が含まれる場合は法が定める通知要件を満たすための対策を検討すべきです。また、そのように無効となり得る競業避止条項を含む契約を現従業員または内定者と結んでいる場合にはかかる契約の修正を検討することをお勧めいたします。
本件に関して何かご質問がある場合は、ケヴィン・ボアザン弁護士(Kevin S. Borozan)、または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。
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