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ハート・スコット・ロディーノ独占禁止法(HSR法)の規則案-合併事前届出手続きの包括的見直し

9.28.23

米連邦取引委員会(FTC)は、ハート・スコット・ロディーノ独占禁止法(Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act)(HSR法)を実施するための合併事前届出規則(以下「本規則」といいます。)の改正案を公表しました。本改正案により、合併事前届出手続きおよびHSR事前届出様式(以下「本様式」といいます。)を用いてFTCに提出する情報に変更が加えられました。

本改正案では、本様式に数々の変更が加えられています。しかし、ここでFTCが目標としていることは、提出者の事業や関連事業分野(business lines)に影響を与える個人または事業体といった取引に関する情報をより多く取得することですから、本稿では、本様式における1つの重要な新しい報告項目である「懸念される外国事業体(foreign entities of concern)からの補助金」に焦点を当てました。末尾にはその他の変更点も箇条書きで列挙しています。

米国インフラ投資・雇用法(US Infrastructure Investment and Jobs Act)において、米国議会は、外国事業体からの補助金は、企業間の競争関係をゆがめたり、さもなくば買収後の競争力を弱めるようなかたちで、企業のインセンティブに影響を及ぼす可能性があり、かかる補助金が戦略面や経済面で米国を脅かすような事業体や国から提供される場合は特に問題となる、と判断しました。本規則において、FTCは、同法により可決された法案を実施しようとするものです。その趣旨で、本様式に変更が加えられたものであり、対象当事者は、「懸念される外国事業体(foreign entities of concern)から補助金を受け取る場合」には、そのことを報告しなければなりません。

報告項目の「補助金」は、1930年関税法(19 U.S.C.1677(5)(B))で定義されていますが、一般的には、直接補助金、贈与、貸付(市場金利よりも低い金利によるものを含む)、融資保証、優遇税率、政府の優先的調達政策、政府の所有または支配の形式をとります。

「懸念される外国事業体(foreign entity of concern)」は、連邦法(2 U.S.C. 18741(a)(5)(C))で定義されています。この定義は若干複雑ですが、ロシア、中国、北朝鮮およびイランからの補助金はこれに当てはまります。しかし、他の補助金もこの定義に当てはまる可能性があります。なぜなら、上記の国々に限らず、次のような事業体からの補助金もこの定義に含まれるからです。

  1. 外国のテロ組織として指定された組織

  1. 米国財務省外国資産管理室(OFAC)が管理する特別指定国民名簿に含まれる者

  1. 対象国である外国政府によって所有もしくは支配され、またはその管轄もしくは指示下にある者

  1. 米国司法長官(U.S. Attorney General)によって、とりわけスパイ活動法(Espionage Act)、武器輸出管理法(Arms Export Control Act)または2018年輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)など、数々の法律に従って有罪判決が下された活動に携わっていた、と主張される者

  1. 国務長官(Secretary)によって、国防長官(Secretary of Defense)および国家情報長官(Director of National Intelligence)との協議の上で、米国の国家安全保障または外交政策に害となる不正行為を行っている、と判断された者

加えて、本様式の改正案は次の変更を含みます。FTCは、これらの改正によって、計画される取引が競争に与える影響を評価するための完全な情報を入手することができると考えています。

  • 取引の各戦略的な根拠を特定・説明する記述

  • 取引の構造図、およびこれに対応し、取引に関与する事業体と個人を説明するチャートの提供

  • 現在の様式は、意向表明書(letter of intent)、または、当該取引に関する他の合意書(最終合意書を含む)に基づく提出を認めていますが、本改正案は、(最終合意書に基づかない場合には)完了する予定の取引の範囲を「十分詳細」に記載した合意書、または、条件概要書(term sheet)のドラフトを提出するよう求めています。

  • さらに、本改正案は、提出者に対して、当該取引に関連するすべての合意書(別紙、付属書等を含む)(署名者が当該取引の両当事者であるか否かにかかわらない)の提出を求めています。

  • 提出者は、外国語資料を提出する際には、かかるすべての資料を一語一句そのまま英語に訳した訳文を提供しなければなりません。

  • 当該取引が労働市場に与える影響をFTCが評価できるように、労働市場(labor market)の項目を新設し、提出者に対して、従業員の職業分類の上位5位までに関する情報を提供するよう求めています。

  • (1) 提出者の事業内容、関連事業分野(business lines)・製品・サービスに関する完全な説明、および、(2)「提出者間の現在および将来の潜在的な水平的な重なり、および供給関係(“current and potential future horizontal overlaps and supply relationships between the filing persons”)」の特定、を含む追加的記述も求められます。

FTCは、取引に関与する当事者および当該取引の複雑さによるものの、本改正案の下では、各当事者による本様式の完成に要する時間は、現行の様式の場合と比較して、12時間から222時間増加するだろうと見積もっています。

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