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カリフォルニア州裁判所、飲食料品に含まれるアクリルアミドをめぐりプロポジション65訴訟の新たな提起についての仮の差止めを命じる

6.23.21
関連業務分野 訴訟

カリフォルニア州知事は、カリフォルニア州の(1986年)安全飲料水および有害物質施行法(Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986)(「プロポジション65」)に基づき、発がん性または生殖毒性を引き起こすものとして「知られている」化学物質のリストを発表しました。化学物質は、次の3つの法律上の要件のうちの1つに該当すると、発がん性原因物質または生殖毒性原因物質として「知られている」ものとされます。

  • 「州における適格な専門家の見解により、一般に認められた原則に従って科学的に適切な試験を実施した結果、がんまたは生殖毒性の原因となることが明確に示されている。」
  • 「そのような専門家の間で権威を有するものと認められている団体が、がんまたは生殖毒性の原因となるものとして正式に識別されている。」
  • 「州または連邦政府の機関が、発がん性原因物質または生殖毒性原因物質である旨のラベル表記や警告表示を正式に義務づけている。[1]

カリフォルニア州では、事業者は、カリフォルニアにおいて、何人をも、故意にがんまたは生殖毒性の原因となり得ることが「知られている」リストの化学物質に晒すに先立って、事前に「明確かつ合理的(clear and reasonable)な」警告を表示することが義務づけられています[2] 。環境健康有害性評価室(OEHHA: California Office of Environmental Health Hazards Assessment)により公表されているカリフォルニア州規則は、モデル警告文を提供しており、このモデル警告文は警告に関する責任に対するセーフハーバーとして機能します。このモデル表示は、「注意: 本製品を摂取することにより、カリフォルニア州においてがんや出生異常、その他の生殖に関わる害を引き起こすことが知られている[化学物質の名称]にさらされる可能性があります。詳細については www.P65warnings.ca.gov/food をご覧ください。 “WARNING: Consuming this product can expose you to [name of one or more chemicals], which is [are] known to the State of California to cause cancer and birth defects or other reproductive harm. For more information go to www.P65warnings.ca.gov/food.”[3]」 と示されています。

カリフォルニア州司法長官または私人は、カリフォルニア州の訴訟手続きを通じて、同州の代理人としてプロポジション65の警告要件をエンフォースすることができます。私人は、訴訟を提起する60日前までに、提訴する意思がある旨及び主張しようとする違反を相手方と州政府に通知しなければなりません[4]

アクリルアミドは、揚げ物、ベーキング、ローストなどの高温加熱調理の過程で、一部の食品、特にでんぷん質を多く含む食品の中に自然に生成されることがある化学物質です[5]。アクリルアミドは、1990年以来、発がん性原因化学物質として、そして2011年以降は、生殖有毒性原因化学物質として列挙されています[6]

2019年、カリフォルニア商工会議所(「CCC」)は、合衆国憲法修正第1条に基づき、カリフォルニア州のザビエル・べセラ(Xavier Becerra)司法長官に対して、アクリルアミド含有食品に係るプロポジション65の警告要件の違憲性を主張する訴訟を提起しました。CCCは、警告の内容を基礎づける明確な科学的根拠がない場合にも、発がん性または生殖毒性の原因として「知られている」化学物質に関する警告表示が義務づけられていると主張しました。カリフォルニア州規則で定められた警告文には、特定の食品中のアクリルアミドが発がん性物質として「知られている」ことが無限定に記載されていますが、事業者が実際の危険性やその欠如について説明する文言を追記することは許されていません。CCCは、アクリルアミドが発がん性または生殖毒性の原因として確証的に「知られている」化学物質ではないにもかかわらず、そのような警告文の表示を義務づけることは、真実ではないかもしれない内容の言論を強制することであり、憲法上許容されない営利的言論(commercial speech)の自由の侵害であると主張しました。なお、CCCが求めたものは、裁判所による(同様の案件に関して提起される)「新たな訴訟」の差止めという将来に向かっての救済のみでした[7]

2021年3月30日、裁判所は、CCCの訴訟の係属中、カリフォルニア州司法長官や他の個人が食品・飲料中のアクリルアミドに関してプロポジション65に基づく新たな訴訟を提起することを禁止する仮差止命令(preliminary injunction)を求めたCCCの申立てを認容しました[8]。修正第1条の下、米国政府は、強制される開示が政府の重要な利益に「合理的に関連する」場合に限り、「営利的言論(commercial speech)」、すなわち「経済的利益」のみに関連する表現を強要することができるとされています[9]。さらに、そのような開示情報は、「事実のみに関する、議論の余地のない情報(purely factual and uncontroversial information)」に限定されなければなりません[10]

キンバリー・ミュラー(Kimberly Mueller)主任裁判官は、科学的研究では、アクリルアミドを含む食品の摂取と体内におけるがんの発生との関連性が証明されていないことを指摘した上で、プロポジション65により義務づけられる警告文の内容は、「アクリルアミドを含む食品や飲料の摂取によりがんの発生リスクが高まるか否かという、真に未解決の科学的論点について一方の立場を優先するものであるため、議論の余地があるものである」と判示しました[11]。さらに裁判所は、カリフォルニア州は「食品の調理過程で自然にアクリルアミドが生成される旨を事業者が説明することを許すことができた」と続けました。これにより、事業は「カリフォルニア州は、アクリルアミドが「おそらく」発がん性原因化学物質であるとして列挙しているものの、アクリルアミドは「多くの食品に共通して含まれており、連邦政府もカリフォルニア州も、これまでにアクリルアミドを食生活から排除するように勧告したことはない」」と表示することができます[12]。しかし、現時点で企業に義務づけられている、セーフハーバーとなる警告文の内容は、「正確な情報ではなく、・・・食品に含まれるアクリルアミドのリスクに関する科学的見解が確定的なものであるという誤解を招く」ものです[13]。以上の理由から、裁判所は、強制される開示が「事実のみに関する、議論の余地のない情報」に当たらないため、アクリルアミドに関する警告表示がプロポジション65により義務づけられることは許されないとする、CCCの修正第1条に基づく請求は認容される可能性が高いと判示しました。


[1] Cal. Health & Safety Code § 25249.8.

[2] Cal. Health & Safety Code § 25249.6.

[3] Cal. Code Regs. tit. 27, § 25607.2.

[4] Cal. Health & Safety Code § 25249.7.

[5] https://oehha.ca.gov/chemicals/acrylamide.

[6] Id.

[7] California Chamber of Com., Plaintiff, v. Xavier Becerra in his official capacity as Att'y Gen. of the State of California, Defendant., No. 219CV02019KJMEFB, 2021 WL 1193829, at *10 (E.D. Cal. Mar. 30, 2021).

[8] Id. at *18.

[9] Id. at *12 (citing CTIA—The Wireless Ass'n v. City of Berkeley, Cal., 928 F.3d 832, 845 (9th Cir. 2019)).

[10] Id. (quoting Zauderer v. Off. of Disciplinary Couns. of Supreme Ct. of Ohio, 471 U.S. 626, 651 (1985)).

[11] Id. at *13.

[12] Id. at *14.

[13] Id. at *16.

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