概要
労働組合に加わっている従業員には、団体交渉権を有する組合との協約を終了させる権利があり、組合協約を終了させるには選挙投票を行います。組合が結成されている会社は、従業員が今後も継続して組合の運営・活動を望むか否かを決定できるように、実証済みかつ実行可能な手段を講じながら、全国労働関係委員会(NLRB)に特別な申請を提出することができます。そのような手段があることを認識し、実施することで、労使関係の形勢が一変する会社も少なくないかもしれません。
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2020年7月28日、全国労働関係委員会(National Labor Relations Board)(「労働委員会」)は、当事務所の顧客会社(「顧客会社」)で行われた組合選挙の投票結果に基づき、組合員(従業員)が今後組合による労働者の代理権を望まないことを示す認証書(Certificate of Results)を発行しました。これにより、労使間の労働協約(union contract)は終了したため、同社(雇用主)は、もはやその条件及び条項に従う必要はありません。さらに重要なことに、顧客会社は、以前のように、労働協約に従って、組合を組合員(従業員)の団体交渉における専属的代表(exclusive collective bargaining representative)として認識し、交渉する必要がなくなりました。
顧客会社がRM申立て(RM Petition/Management-Filed Decertification Petition)をした結果、従業員は組合選挙で投票を行うことになりました。従業員がRD申立てをして組合認証の取消を求めるように、雇用主は、RM申立てを行うことで、従業員が今後も労働組合の結成・運営を望むか否かを決定できるように、労働委員会に組合選挙の実施を要請しました。組合員(従業員)の最低30%の支持があればよいことを認可条件とするRD申立ての場合(従業員/組合員が組合認証の取消を求める場合)とは異なり、RM申立てでは、組合員の過半数が組合の結成を望まないことを証明しなければなりません。組合員の過半数が署名した申請書、または雇用主(管理職者)(1名以上)が署名した宣誓供述書を提出することによって、この証明をすることができます。雇用主は、宣誓供述書によって、組合員である従業員が労働組合の代表権をもはや望まないことを証言します。
顧客会社は、RM申立てをする際に、自社の労働組合員が組合による代表権を望んでいないことを証明する必要があるため、従業員が自ら組合の認証取消をすべきか否か判断できるように、特別の手段と実証済みの対策を講じました。それは、従業員は「労働団体を結成し、それに参加しまたは支援する・・・権利を有するものとし・・・、さらにかかる何らかの活動またはすべての活動に加わらない権利も有するものとする。」と規定する全国労働関連法(National Labor Relations Act)の第7条(「本法」)に従うものでした。顧客会社は、「本法第7条で保証されている権利を行使しようとする従業員を干渉、抑圧または強制する」ような、本法第8条(a)(1)による不当労働行為はしていませんでした。顧客会社は、従業員とのやりとり(コミュニケーション)において、「そのコミュニケーションの中に、会社が従業員に対して報復もしくは強要する行為または利益の約束とみなされる内容が含まれない限り」不当労働行為ではないとする遵守義務と本法第8条(c)による会社の権利の解釈を効果的に適用しました。さらに顧客会社は、労働委員会の指示を仰ぎ、協力し合いながら、本RM申立てを退けるのではなく、選挙を命じてもらえるように、労働委員会の支局長(regional director)を説得し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを理由に、郵便投票の実施も承認してもらうことができました。
本法第8条(c)により、顧客会社は、従業員とコミュニケーションを取ることが許されていたため、従業員に対して、労働組合について話し合いの場を設けることを持ちかけました。この話し合いは、経験のある人事労務コンサルタント(labor relations consultant)と顧客会社の弁護士の支援を得て行われました。その後、従業員が興味を示した時点で、顧客会社は、従業員が組合を望まないことを立証する文書と共に、RM申立書を提出しました。労働委員会は、本RM申立てを退けず、従業員による組合の支持状況を立証する申立書(showing of interest)は、選挙を命令するに足るものだと判断しました。顧客会社では、選挙キャンペーンを経てから投票が行われ、その結果、従業員の過半数が労働組合による代表権を支持しませんでした。組合は、選挙について異議申し立てをしなかったため、労働委員会は労働者(従業員)が組合による代理権を望まないことを示す認証書を発行しました。
労働委員会が選挙を承認したこと自体が勝利でした。従業員の過半数から組合の代理権を望まないという認証を得ることは難しいため、RM申立ての成功例は、ほとんど見られません。たとえば、2019年度に米国中の企業が提出したRM申立ての数はたったの37件しかありませんでした。そのうちの13件は撤回されました。労働委員会は、残りの申請のうち8件については受け付けず認可しませんでした。この統計的数値を労働組合員である従業員が組合認証の取り消しを申し立てる「RD申立て(Employee-Filed Decertification Petition)」と比べてみた場合、283件のRD申立てが行われたうち、116件が撤回され、13件が認可されていません。なお、労働組合が従業員の代理権を求めて行う申立ては、RC申立て(RC Petitions)と呼ばれます。組合は、1,673件の申立てを行い、そのうち476件を撤回し、23件については、労働委員会の認可を受けられませんでした。
たとえ顧客会社がRM申立てに対して労働委員会の認可を得られなかったとしても、前述のような手段を経て、顧客会社は、労働組合について、または組合が組合員に提供するサービスの内容について、従業員と話し合うきっかけが得られたはずです。さらに、話し合いを通じ、従業員の質問に応じる形で、組合認証の取消に関する法律および規則についても説明する機会が得られたことでしょう。したがって、会社/雇用主がRM申立てを行い、それが労働委員会に承認されなかったとしても、その後も、会社と従業員間でコミュニケーションを取り合ってゆくことができます。そのようなコミュニケーションがきっかけとなり、将来、従業員らが自ら、RD申立てを考慮することも考えられます。その場合は、組合員(従業員)から30%の支持を得るだけで、申立ての認可条件である組合の支持状況を立証(showing of interest)することができます。さらに、本件のように雇用主が従業員とコミュニケーションを取り合った経験は、後に労働組合が新たな協約を締結するため団体交渉を行う際に、役立つはずです。
労働協約の有効期間の満了が近づいている会社は、組合員である従業員にとって、今後投票によって、組合認証の取り消しを望むような状況があり得るか調査・検討してみるべきです。通常、このプロセスは、会社のマネジメントと組合員との間に信頼関係を築けるように、労働協約の有効期間が満了する2か月ほど前に始めるのが一番効果的です。そして、組合と組合員の現状を分析した結果に基づき、会社は、労使関係・労務分野に詳しいコンサルタントと共に、特別な手段と対策を講じることができるはずです。
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