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ニュース&イベント: 雇用/労働法/福利厚生関連情報

イリノイ州の各企業は新たなハラスメント禁止法の施行に備えよ

8.21.19

概要
 

イリノイ州議会とプリツカー州知事は、新法を制定することにより#MeToo運動に応えた。2020年1月1日と7月1日は、各企業にとって遵守が義務づけられる新たな州法が続いて施行される重要な日となる。各企業は、これら新法の遵守に備え、会社規程、就業規則およびその実施手順を記載した文書の見直しと修正を強いられる。

2019年8月9日、イリノイ州知事JB プリツカーは、「職場の透明化法(Workplace Transparency Act)」の法案に署名した。2020年1月1日から、イリノイ州の全企業が本法を遵守しなければならなくなる。本法により、嫌がらせ(「ハラスメント」)に対しては次のような保護条件が加わるが、企業にとっては特定の義務が生じる。

  • 従業員が雇用主に対して性的嫌がらせ(「セクシャル・ハラスメント」)があったことを主張する場合、その雇用主とは、ひとりまたは複数の従業員を雇用する者を含む。
  • 「違法な差別行為(unlawful discrimination)」という言葉の定義は、従業員または就職志望者の人種、肌の色、性別およびイリノイ州人権法(Illinois Human Rights Act)により保護されるべき他すべての属性に基づき、実際に行われた差別および認識された差別の両方を意味する。
  • ハラスメントは、必ずしも「職場環境(working environment)」で起こるとは限らない。すなわち、ハラスメントには、従業員の勤務場所(実際に職務を行う場所)で行われる行為だけではなく、職場を離れた場所で行われる行為も含まれる。
  • ハラスメントを受けた従業員に関して、雇用主は、その管理職従業員および監督業務を担当する従業員(managerial and supervisory employees)が従業員に対して行ったハラスメントに対して責任を負う。しかし、もし雇用主が、それ以外の従業員がハラスメントを行っているのに気づいていながら、何の是正措置も講じない場合は、雇用主は、かかるハラスメントを行った従業員に対しても責任を負う。
  • 請負業者、下請け業者、業者(vendors)、コンサルタントおよび独立請負人(independent contractors)など、企業の従業員でない者(Non-employees)でもハラスメントからの保護対象である。
  • 前項の非従業員が、企業の管理職従業員および監督業務を担当する従業員(managerial and supervisory employees)からハラスメントを受けた場合、雇用主は、当該ハラスメントに対して責任を負う。しかし、管理職者でも監督者でもない従業員が行ったハラスメントに関しては、もし雇用主がそのようなハラスメント行為に気づいていたにもかかわらず、何の是正措置も講じなかった場合に限って、雇用主はハラスメントを行った非従業員に対しても責任を負う。
  • すべての雇用主は、全従業員を対象としたハラスメント防止トレーニング・プログラムを、毎年実施しなければならず、かかるトレーニング・プログラムは、少なくとも、イリノイ州人権省(Illinois Department of Human Rights)(「IDHR」)が発行したモデル・トレーニング・プログラムの内容を含むものでなければならない。
  • 雇用主は、従業員との雇用契約書に、ハラスメントおよび差別に関する開示および非難を禁止する条項(non-disclosure and non-disparagement provisions)を含めることはできない。
  • 雇用主が作成する仲裁合意書(Arbitration Agreement)には、従業員および就職志望者が、仲裁手続または司法機関(IDHRまたは米国雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission)など)を通じて、ハラスメントおよび差別に対する雇用主の責任を追及できることを記載しなければならない。
  • 雇用主は、仲裁合意をするに際して、従業員および就職志望者に、連邦⁄州法上の請求権や懲罰的損害賠償金を放棄させるなど、立法上不道徳とみなされるような条項を同合意書に記載してはいけない。
  • 雇用主は、従業員の退職(離職)合意書(Severance Agreement)に、ハラスメントおよび差別に関する開示・非難禁止条項を記載できる。しかしそれは、合意書に、従業員または就職志望者には、合意書の締結(署名)前に21日間の考慮期間、および締結後7日以内に同合意を取消す権利が与えられるなどの、特別条項が同書に含まれる場合に限られる。
  • イリノイ州犠牲者のための経済安定・安全法(Illinois Victims’ Economic Security and Safety Act)(「VESSA」)の下で、セクシャル・ハラスメントは、従業員が12週間を最長期間とする無給休暇を取る資格を取得する理由となる。
  • 2020年7月1日から、各雇用主は、IDHRへの報告を義務づけられる。2020年を初年度として、雇用主は、毎年7月1日までに、前年に雇用主に提起されたセクシャル・ハラスメントおよび差別の損害賠償請求の訴えに関する、和解、不利な判決および行政判断の総件数などの情報をIDHRに報告しなければならなくなる。
  • IDHRは、開示された情報を基にして、違法の差別行為が行われているパターン(傾向)があることを疑う場合は、独自の予備調査を行うことができる。そして実際に差別行為(とその傾向)がみつかるとIDHRは、雇用主を人権侵害で起訴する手続を開始できる。
  • IDHRは、前述の報告および⁄またはハラスメント防止トレーニングの実施を怠った雇用主に対して、民事罰を科す権利を有している。

本法を遵守するために、すべての雇用主は、2019年12月31日までに以下のようなアクション・プランを実施しなければならない。

  • 雇用主の既存のハラスメント防止規則を修正し、修正版規則を従業員に配布する。本修正規則は、非従業員によるハラスメントおよび職場以外の場所におけるハラスメントにも適用されるという事項も含め、必要な変更事項を加えなければならない。
  • 雇用主のハラスメント防止トレーニング・プログラムを見直し、その内容に必ずIDHRのモデル・トレーニング・プログラムが含まれていることを確認し、含まれていない場合には、追加修正する。
  • 従業員との雇用契約書に、ハラスメントおよび差別に関する開示・非難禁止条項(non-disclosure and non-disparagement provisions)が含まれることがないように見直し、修正し、修正雇用契約書を配布する。
  • 雇用主がすでに仲裁合意書を作成している場合は、既存の合意書の内容を見直し、修正し、修正した雇用仲裁合意書を配布する。
  • ハラスメントおよび差別に関する問題を解決する標準退職(離職)合意書(Standard Severance Agreement)の草案を見直し、修正する。
  • IDHRに報告する準備として、ハラスメント・差別の損害賠償請求および訴訟に関するすべての判決、行政判断および和解成立に関する文書を順番どおりにまとめ、整理し、レビューし始める。
  • 雇用主が従業員の就業規則に記載することのあるVESSA規則を見直し、修正し、修正版を配布する。就業規則にVESSA規則が含まれていなくても、本法を遵守するために、VESSA規則を実施する。

本法の施行に伴い、雇用主が早期対応することによって、2020年1月1日から有効となる本制度の改革に備えることができるだろう。年が明ける(2020年)まで、あるいはより深刻な状況で、従業員がIDHRでセクシャル・ハラスメントおよび差別の損害賠償請求をして雇用主を訴えてくるまで待つことはお勧めしない。実際にそのような状況で、雇用主が本法を遵守しているか否かを確認するために、IDHRが調査し始めてからでは遅すぎる。調査結果によっては、雇用主に罰則が科されるかもしれないし、または実際に違反があったと確信するに足る相当の証拠が発見される可能性がある。

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