執筆者:
エイサ・マーケル (弁護士)
共同執筆者: リー 美保 (ロー・クラーク)
カリフォルニア州最高裁判所は今年3月、残業手当の計算方法に誤りがあったとして従業員が雇用主を訴えていたケースで、雇用主による控訴を退けた(Alvarado v. Dart Container Corp. of California; March 5, 2018)。この裁判の焦点は、週末(土・日のいずれか)に勤務した倉庫作業員に、基本給に上乗せして週末一日あたり$15の特別ボーナス(以下、「特別出勤手当」)を支払い、更にその従業員の一週間の労働時間が40時間を超えた場合の残業手当の計算方法において、雇用主と従業員の間で食い違いが生じたところにある。
カリフォルニア州労働基準法賃金規定第11010条は、主に製造業の適用対象(non-exempt)分類の従業員を対象に、残業手当に関する厳しい規定を設けている。問題は、従業員の労働時間が残業手当の対象であり、その上に定額の特別出勤手当などが支給される場合、残業手当を計算する際の時給レートがその都度変化するという点である。
雇用主は、自らの計算方法が州の労働基準法を順守していると主張。それによると、雇用主は、一週間の残業時間を含む実労働時間および特別出勤手当を基に新たな時間給を算出し、その時間給をベースに割増残業手当を算出していた。
一方、訴えを起こした従業員は、まず所定時間給にて残業時間を対象に残業手当を算出。更に、特別出勤手当による割増分時間給を計算し、特別出勤手当対象の残業手当を算出。その額と前述の残業手当を足した額が実際の総残業手当だと主張した。
この判決で州最高裁がどのような判決を下したのか、文章だけでは説明が困難だが、以下の例により両者の計算方法の違い、及び、加算される割増残業手当(Overtime Premium)に違いが生じることがお分かり頂けるかと思う。(注:下記の数値は、あくまでも一般例である。)
<例>
所定労働時間(一週間):40時間
残業時間:5時間
一週間の実労働時間:45時間
所定時間給:$15/時間
所定労働時間のみ対象の一週間分給与:$600
特別ボーナス(特別出勤手当):$15/日
雇用主による計算方法:
Step 1: 通常の残業手当基本額
$15 (所定時間給) x 5 (残業時間) = $75
Step 2: 一週間分の基本給与額
$600(通常の一週間分給与)+ $75 (Step 1) + $15(特別出勤手当)= $690
Step 3: 実労働時間および特別出勤手当を考慮し算出した新たな時間給
$690 (Step 2) ÷ 45 (一週間の実労働時間) = $15.33/時間
Step 4: 残業手当基本額に加算される割増残業手当
$15.33 (Step 3) x 5 (残業時間) x 0.5 = $38.33
Step 5: 総残業手当
$75 (Step 1) + $38.33 (Step 4) = $113.33
従業員による計算方法:
Step 1: 所定時間給を基にした通常の残業手当(残業手当基本額および割増額)
$15 (所定時間給) x 5 (残業時間) x 1.5 (残業レート) = $112.50
Step 2: 特別出勤手当による割増分時間給
$15 (特別出勤手当) ÷ 8 (一日の所定勤務時間) = $1.88/時間
Step 3: 特別出勤手当による割増分時間給に対する残業手当
$1.88 (Step 2) x 5 (残業時間) x 1.5 = $14.10
Step 4: 総残業手当
$112.50 (Step 1) + $14.10 (Step 3) = $126.60
最高裁は、定額の特別出勤手当が残業レートに影響を及ぼす場合、当該特別出勤手当の「時間給を示す必要がある」とした。上述のAlvarado Alvarado v. Dart Container Corp. of California事件においては、従業員がその日に残業したか否かにかかわらず、雇用主は従業員に「週末勤務に対する特別出勤手当」を支払っていた。従って、当該特別出勤手当は、「所定労働時間の一環として得た」かのように取り扱われるべきであり、つまりは当該特別出勤手当の一時間当たりの金額を別途考慮した上で残業手当を算出すべきであるとして、従業員による計算方法を支持する立場をとった。
今後の対策:人員が集まりにくい週末に労働者を確保をするため、インセンティブとして支給される特別出勤手当。しかし、雇用主は、カリフォルニア州の労働法が、もともとは企業が従業員に対して残業を強要することを阻止するためつくられ、それにより雇用を増大させて失業率を下げる目的があることを忘れてはならない。労働者から歓迎される特別出勤手当だが、Alvarado v. Dart Container Corp. of California事件のような判決が下されては元も子もない。特に、賃金規定第11010条が適用される企業は、解決策が不透明な現在、今一度ボーナスポリシーを見直す必要がある。
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